エンジンオイルにまつわるワードで、粘度という言葉をよく耳にしますよね。粘度という漢字を見ただけで、粘り度合いという風に意味を連想できるので、御存知の方も多いかもしれません。
しかし、粘度を上げたり下げたりする事でどういった影響を与えるのか、粘度表示はどのように見ればいいのか、など一歩踏み込んだ話になると、説明できる人はかなり減ってしまうのではないでしょうか。
この記事では、そんな身近なようで実際には奥深いエンジンオイルの粘度について、徹底的に掘り下げてみました!
エンジンオイルの「粘度」とは?
エンジンオイルには低温になると流動性が低く(ネバネバ・硬く)なり、高温になると流動性が高く(サラサラ・柔らかく)なる性質があります。
粘度とはこの粘り度合いを数値化したものであり、粘度が高くなると流動性が低くなり、粘度が低くなると流動性が高くなります。
ただし、単純にネバネバ、サラサラであれば良いという訳ではなく、エンジンオイルは低温と高温のどちらであっても適正の粘度を保持しなければなりません。
粘度は粘性率や粘度係数、絶対粘度ともいわれ、量記号ではμ(ミュー)、SI単位ではPa・s(パスカル秒)を用いて数値化する事ができます。定義としては2枚の平板を上下に平行に並べ、その平板の間を流体で満たした状態で片側の平板だけを動かす際に必要な力とされています。
せん断応力(τ)は、平板を動かす力をF、面積をAとすると、τ=F/A導き出す事が出来ます。更に、平板を動かす速度をU、平板の間隔をHとすると下記のようになります。
この比例定数μが粘度です。
エンジンオイルの粘度と性能の違い
エンジンオイルの粘度が変わる事で、エンジンにどういった影響を与えるのでしょうか。
まず、エンジンオイルの粘度が低くなると、エンジンの運動に対する抵抗が少なくなります。ですから、エンジンの動きが軽くなり燃費の向上や、始動性が良くなる(セルが回転しやすくなる)といったメリットが生まれます。
一方で粘度が低くなる事でエンジンオイルの粘膜が薄くなり、エンジンの保護性能が下がったり、粘膜による気密性が低くなってしまいます。
次に、エンジンオイルの粘度が高くなると、エンジンの運動に対する抵抗が大きくなってしまい、フリクションロスが大きくなります。その結果、燃費の悪化や、始動性の悪化に繋がります。
一方で、高温に強くなったり、気密性が向上したり、エンジンの保護性能が高くなるというメリットがあります。
動粘度(オイルの硬さ)
動粘度は粘度(Pa・s)を流体の密度(kg/m 3)で割る事で算出する事ができ、動粘度の単位にはSt(ストークス)、または㎟/s(平方ミリパーセック)を用います。
動粘度(ν)は、粘度(μ)を密度(ρ)で割る事で算出する事ができ、計算式は下記のようになります。
動粘度が意味するものは、油膜を形成した状態のエンジンオイルの流れ落ちにくさです。低温では粘度を維持できていても、高温になると粘度を維持できなくなってサラサラになるようではエンジンにダメージを与えてしまいます。
粘度表示と見方
エンジンオイルの粘度表示には、米国自動車技術者協会によって定められたSAE規格に基づいたSAE粘度分類による番号で表示されています。
表示方法にはマルチグレードとシングルグレードの二種類があり、それぞれ表示方法は異なります。
マルチグレード
マルチグレードは、〇〇W-〇〇(〇の部分に数字が入る)などと表示されています。
ローマ字のWはWinterの頭文字であり、季節の冬を表しています。このWの左側の数字には低い温度を示しており、ハイフンの右側の数字は高温を示しています。
この数字が意味するものは、低温時ではエンジンの始動に差支えが無い粘度、高温時では油膜切れを起こさない温度を示しています。低温、高温で表示内容の意味合いが異なり、低温の方は対応している外気の温度であり、高温の方はエンジンオイルの温度という事になります。
ひと目で対応している温度を確認できますが、表記されている数字は温度ではなく、温度区分の番号である点には注意が必要です。
日本国内で利用されている一般的なエンジオイルでは、0W、5W、10Wがあります。0Wは-35℃、5Wは-30℃、10Wは-20℃と、それぞれの温度に対応しています。余程の寒冷地でなければ5W、もしくは10Wでも対応している事が分かります。
シングルグレード
シングルグレードは、マルチグレードのようにハイフンやその後に続く表示はありません。エンジンオイルの技術が現在のように進歩していなかった時代は主流でしたが、現在では殆どのエンジンオイルがマルチグレードとなっています。
シングルグレードでは外気による温度が限定されているので、季節によって使用するエンジンオイルを選択しなければなりません。
粘度指数(温度による粘度の特性)
粘度には、粘度(粘性係数、粘性率)、動粘度の他に、温度による粘度の特性を表した粘度指数もあります。
エンジンオイルの粘度は温度によって変動しますが、その変化の大きさを表したものが粘度指数です。粘度指数は日本工業規格(JIS)によって規定されており、粘度指数の数値が大きくなるにつれてその変化は小さくなります。
粘度指数の数値は、温度による粘度変化が著しいナフテン系のガルフコースト原油を0、温度による粘度変化が極めて小さいパラフィン系のペンシルベニア原油を100として、試験をするエンジンオイルの粘度指数を示しています。
ただし、0と100という数字はあくまでも基準となる数値であり、ハイスペックな車に対応したエンジオイルでは100の倍である粘度指数200のものもあります。
日本工業規格(JIS)K2283によって粘度指数の換算方法も記述されています。それによると、粘度指数100未満ではA法、100以上ではB法で算出するとなっています。
A法の換算方法には、まず計算式に必要なL、H、Yの値を出さなければなりません。100℃での動粘度が2~70mm2/sの場合は、同規格の付表1(43項)からL、およびHの数値を求めます。
Lの算出方法は、L=0.835 3Y2+14.67Y−216で、Hの算出方法は、H=0.168 4Y2+11.85Y−9でそれぞれの値を算出します。
Yの値は試料が100℃の時の動粘度 (mm2/s)です。
L、H、Yすべての値が分かれば、下記の計算式で換算します。
Uには試料の40℃の状態での動粘度(mm2/s)をいれて計算します。
B法の換算方法には、計算式に必要なHの値を出さなければなりません。100℃での動粘度が2〜70mm2/sの場合は、付表1(43項) から H の値を求めます。
Hは、H=0.168 4Y2+11.85Y−97で算出します。
エンジンオイル粘度の選び方
エンジンオイルの粘度と一言で言ってもその種類には、粘度(Pa・s:パスカル秒)、動粘度St(ストークス)または㎟/s(平方ミリパーセック)、粘度指数などがありました。これらを踏まえてエンジンオイル粘度を選ぶとなると、これまでよりも選択肢の幅がかなり広がります。
SAE粘度については、メーカーが推奨している範囲内で選ぶという事を前提として、その他はその効果を参考にして、エンジンオイルを選択します。
エンジンオイルの粘度を変える効果
エンジンオイルを選択する際に、より目的に合った粘度選定ができるように、改めてエンジンオイルの粘度を上げた時、粘度を下げた時の効果をまとめてみます。
粘度を上げる
粘度には種類があるので、単純にSAE粘度分類で硬いオイルを選択するだけではダメだという事が分かりました。つまり、単純に10W-30のエンジンオイルを10W-40にすれば大丈夫という訳ではありません。
Wの右側の数値を上げる事で高温時の動粘度は高くなりますが、粘度を上げる事でフリクションが大きくなったり、オイルの循環に負担がかかってしまいます。
エンジンオイルの粘度を上げる際に、絶対に確認しておきたい項目は動粘度と粘度指数です。これらの表示が明記されていない場合は、エンジンオイルメーカーのサイトで確認して、交換前のエンジンオイルよりも高温に対応しているかの確認が重要です。
粘度を下げる
昨今のハイブリッドカーやエコカーなどは、粘度の低いエンジンオイルを指定しているメーカーが多くなっています。そういう事から、粘度を下げれば燃費が良くなると話題になっていますが、一方で粘度が低くなる事で高温時の保護性能が低下してしまうという問題もあります。
結果として、エンジンがダメージを受けたり、トラブルを引き起こすという問題も頻発しています。確かに粘度が下がる事でフリクションロスを少なくして燃費の向上に繋がる事は間違いありませんが、粘度を下げる事でデメリットも生じる事には注意しておかなければなりません。
まとめ
一言に粘度と言ってもその種類や役割は複雑であり、大雑把に粘度を変えてしまうとデメリットが生じてしまいます。また、これらすべてのエンジンオイルの粘度を確認しても、実際にそのエンジンオイルを使ってみてはじめて気付く違いも多くあります。
一旦エンジンオイルに拘りはじめるとかなり奥が深いですが、それだけエンジンオイルには種類があり、その違いにも差があると言えます。
しかし、微妙な違いを味わってみたり、ぴったりのエンジンオイルと出会えた時の喜びを考えると、また一つカーライフの楽しみが増えるので、一度愛車のエンジンオイルに拘ってみてはいかがでしょうか。